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最高裁判所第三小法廷 昭和26年(オ)559号 判決

論旨は、原判決は、訴外丹羽見吉が副業として農耕に従事している事実を認定しながら同人の申請に基く本件宅地建物の買収計画を適法としたのは違法であると主張するに帰する。

おもうに、自作農創設特別措置法一五条が自作農となるべき者の申請によりその賃借権等を有する宅地建物を政府が買収することを規定しているのは、同法一条に規定する同法の目的を達成するためであることは説明を要しない。そして、同条は同法の目的として耕作者の地位の安定を掲げており、農業従事者の住居の用に供せられている宅地建物を農業従事者に所有せしめることが、耕作者の地位の安定に資することは疑のないところであるが、しかし、他面、同法一五条の買収は所有者の犠牲のもとにその意思に反して行われるものであり、かつ、一般に、宅地建物の賃借権者等の生活の安定のためには借地法借家法等の法律の存することをあわせ考えれば、農業を本業とせず単に副業として農地を耕作するに過ぎない者のためにまで、その居住用宅地建物を買収することは同条の本来の趣旨とするところではないと解するのを相当とする。けだし、単に副業として農耕に従事している者にまで一般国民より一層生活を安定せしめなければならない理由は、自作農創設特別措置法一条からも当然には導き出すことはできないからである。右一五条一項は自作農となるべき者の買収申請を市町村農地委員会が相当と認めたときにのみ買収すべき旨を規定し、相当であるかないかの判断を一応農地委員会に委せているのであるが、かゝる者の買収申請に対しては、農地委員会としては買収申請を相当でないとして斥けねばならない。

これを本件について見るに、本件宅地建物の買収を申請した訴外丹羽見吉は昭和一三年以来精麦、製粉業を営んで居り役畜を使つて農耕に従事しているとはいうものの、その農業が副業に過ぎないことも原判決の確定するところである。もつとも、副業として農耕に従事している場合でも、特に借地法、借家法の保護を以ては足りず副業であるに拘わらず買収せしめることを必要とする様な何等か特別の事情が存する場合には、同法一五条の趣旨から言つて附帯買収を相当と認めるべき場合もあるであろうが、原判決はかゝる特別の事情の存在については何等判示するところなく、単に右丹羽が農地の売渡を受けた者である事実及同人の農業経営に本件宅地建物の必要である事実を認定して、同人の農業が副業である事実を認めながら、なお、本件買収計画を相当であるとしたのは、法律の解釈を誤りその結果、審理不尽の違法があるか理由不備の違法があるものと言うの外なく、この点に関する論旨は理由があつて原判決は破棄を免れない。よつてその他の論旨に対する判断を省略し民訴第四〇七条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判官 井上登 島保 河村又介 小林俊三 本村善太郎)

上告人親権者三宅信行同三宅安菊の上告理由

一、上告人は原審に於て丹羽見吉の本件宅地建物について買収資格の無い点を主張するため同人は本件の宅地建物を精麦製粉業を営む目的にて賃借し爾来右の業務に従事し専ら該営業所得により生計を立て云々と主張し、(昭和二十五年六月八日附準備書面)この点につきまして原審判決の理由は丹羽見吉は昭和十三年三月以来精麦製粉業を営んでいたがその間副業とは云え役畜を使つて農耕に従事し云々と説明して居られます上告人の主張したのは土地建物等の買収除外例を定めた自創法第十五条第二号に掲ぐる賃借人の主たる所得が農業以外の職業から得られる場合に該当するもので丹羽は食糧事情の逼迫から免れんとする食糧補給策に因る補助的な零細耕作者であるから同人の申請による本件買収は違法であるとの趣旨に外ならないのであります。

然るに原審は副業農家を認定しながら主業たる精麦製粉による所得と農業上の所得と何れが主たる所得であるかを審究判断することなく単純に副業であつても農業従事者であれば農業を営むものと謂うに妨げないと説明したのみで審理を尽されて居りません。少なくとも理由不備であると思います。

二、真の所有者に非る秋山真吉の申請による農地買収は無効であるのみならず従つて丹羽見吉に対する売渡も無効であるから同人は本件宅地建物を買収申請の資格がないと信じます。

原審判決は(前略)前記の各土地は元秋山真吉の所有であつたが同人より昭和二十年十月頃訴外岡本惣太郎に同訴外人よりその頃右丹羽見吉に順次売渡されたものであつてその登記手続が延びている間に関係者協議の上右秋山真吉より右丹羽見吉に直接所有権移転登記手続をすることになつたところ昭和二十一年六月頃右両名の合意により右売買契約をそれぞれ解除し原状に復することとしその所有権を右秋山真吉に回復せしめ右土地を右丹羽見吉が耕作していたが右秋山真吉より前記の如く買収申請がなされたので、被控訴人江原町農地委員会は買収計画を樹て政府において買収し、次で右丹羽見吉は右の資格に基きその売渡を受けたことを認めることが出来るから、買収申請人の秋山真吉は右土地の所有権がなかつたとは謂えないのみならず、右丹羽見吉にその売渡を受ける資格がなかつたとも謂えないと判示せられました。然れども秋山より丹羽見吉え直接移転登記をしないのは登記し得ない理由はない。又漫然と延び延びとなつていたものでもありません。

当時江原町農地委員会委員の多数は丹羽の薬籠中にあつた。殊に同委員で第一審証人の中谷三郎の如きは丹羽のため本件宅地建物を取らせようと頻りに応援奔走したものでこれ等有力な農地委員の多数が味方についている以上、闇値で買受けた土地と云つても移転登記をするのに所定の農地委員会の承認乃至知事の認可の得られない筈はないと信じます、然るに事爰に出でず殊更に秋山をして政府に買収方を申請せしめたのは自創法第三条による農地買受人たる資格を作り本件宅地建物を買収せんがための不純な工作であります。

丹羽見吉は岡本惣太郎より問題の土地を買取り耕作することによつて既に立派な自作農であります。敢て政府の手により買収せしめる必要はなく政府において買収すべき筋合のものでもありません、秋山は登記名義人ではあるが真の所有者ではないのに登記名義が同人に残つていたのを幸い所有者として買収申請を為さしめたものであります。

合意解除と申すのは虚構であり右の登記名義に副わせるための偽工であります。

仮りに真に合意解除と言う手段を選んだとしても闇買とは云え売買代金を完済し土地の占有を移転し当事者双方完全に契約を履行済の上買受人丹羽見吉が一年有余も耕作した後に何の理由もなく契約解除を為すもので理由は外ならぬ本件宅地建物買収の資格を作為し農地法による買収にかけんがためである。このような動機理由により合意解除が許されるとすれば時に第三者は不測の被害を蒙るのであります。法の秩序も何もないと思います。このようにして所有者たる上告人の権利を犠牲にする意図が法の保護を受け得るとすれば所謂「長いものには巻かれろ」「泣く児と地頭には勝てぬ」と云う封建時代を再現するものと謂うも過言でないと信じます。自創法と言う農地大改革に拠るならばその手段方法の脱法的なると三百的なるとを問わずと云うなら全く往昔の斬捨て御免同様と申さねばなりません。上告人は以上の意味合から自由平等と財産不可侵を保障する民主憲法の侵犯であると主張致します。

前記合意解除を肯認せられたのは事実を誤つて認定したのみならず法律の解釈を誤つて居る上憲法の違反であると信ずるものであります。

三、自創法第十五条の宅地建物の買収を相当と認むる場合は同法第三条の規定により買収した農地について自作農となるべき者が当該農地に附属している宅地建物を農業経営上必要とする場合に限られていることは第十五条に先ず当該農地に対する農業用施設水利立木を列挙し以下宅地建物をこれに準ぜしめた法意によりても窺うことが出来ると思います。普通に第十五条の規定を農地の附属物の買収と称する所以もここにあると思うのであります。然らずして苟も農地耕作に必要なる限り何人の所有で何処に在つても賃借の土地建物である限り買収可能なりとすれば、例えば都市商店街に於ける商店向のそして広大な建物の賃借人が自家食糧補給の目的を以て偶々他の所有に属する農地を耕作していたところ爰に該借家を自己のものにせんと野心を生じ、先ず当該農地を政府買収により売渡を受けこれを資格として右宅地建物の買収を為すが如く、元当該農地と何等の因縁もない家を商業用兼住宅に利用すべく手に収めることが出来る。即ち自創法に便乗或は悪用することになり、略奪的な目的を達することが出来るのでありまして洵に恐るべきことであると思います。敗戦以来道義地に墜ちたとは言え、このようなことはあつてはなりません。真の日本の姿ではありません。本件宅地建物の買収処分につきましては終審たる最高裁判所におかれまして慎重な御検討を願わねばなりません。畢竟原審は自創法の解釈を誤つたものと謂わねばなりません。御是正を願う次第であります。

四、原審は訴外丹羽見吉が自創法による買受耕作する農地一反四畝二十二歩を所有する副業農家であることを認定しこれでも本件宅地建物を買収する資格があると断定せられました。副業でしかも僅かに一反四畝余の土地を片手間に農作する人が果して増産に役立つ精農者であると謂えないのは多言を要しないと思います。それにも拘らず僅かに一反四畝二十二歩の副業農業者が百七十五坪の広大な宅地とその地上に在る町の真中の商店向(丹羽に賃貸前は代々商店であつた)建物とを右の農業経営の必要から無対価同様で買取ることが出来ると言うことは私共在来人の到底腑に落ちない事柄であります。広くても余地があつても農業用に適しないことはないと断ぜられた丈けでは納得が参りません。

自創法第十五条には農業用施設水の使用に関する権利立木土地又は建物の買収申請を同法第三条の規定による自作農者においてすることが出来ると規定し該耕作面積については限定するところがなく、又農業に精進努力すると否とを区別した字句は見られないが精農家たるの条件は同法第一条の規定の趣旨から全体を通し一貫した法の精神であり買収と表裏一環を為す同法第十六条の売渡の規定から推しても明かであります。

原審の判決はこの点においても事実の認定を間違え且つ法令の解釈を誤つていると思います。

五、上告人の親権者三宅信行は若い頃からの盲目者で苦心習得した琴を教えて生活するため本件建物の所在場所から十数丁離れた脇町において戦前より琴の師匠をしていたが、戦争中稽古に通う人もなく爾来唯一の生活資源を失い、便所の裏手に当る半坪位の個所に竹矢来を組み、果ては二階に木箱を持込んで鶏を飼い老妻の安菊に頼り、些細な収入を得これを補給として殆ど売り食いを続けているが、迚も此処で何時迄もこの儘の生活は出来ないので親類縁者友人のある生れ故郷の本件建物に帰住することを念願し、丹羽の建物明渡を待つて広い宅地内に養鶏場を設けて経営する一方場所柄を利用し普通の文具日用品を商い、不具の老後を送りつゝ一人娘の上告人の身の片付を見届けんとするもので、本件の宅地建物は実に同人一家に取つて生命であるから人手に渡すことの出来ない物であります。当脇町の現住家屋は昭和二十三年二月頃、従来の借家を買つたものであるが、此処に永住の意思で買つたものではありません。家主の宇山勝人はその近隣一帯の家主であるところ納税に困り全部売却することになり、三宅に対しても他所同様買取方を申込んで来たが、生計困難の場合拒絶したとすると他に買手があるから即時売却する。若しそうなれば直に明渡を要求せられ退去せねばならない。割安くするから是非買取れと云われ、真実他に希望者が現われていることも確かに判つて居り、元来愚直な信行夫婦は本件建物が到底直ちに明渡を受けることが出来ない。今直に借家から追出されると災難の上の難儀であるからとて、所持品を売却したり借金等により漸く金策して急場を凌ぐため買受けた次第で、今は生活愈々窮迫を告げ、見るも哀れな状態で一般の同情を受けて居るのであります。

丹羽見吉に対する別件建物明渡訴訟の帰結は別として、本件の宅地建物は上告人方に絶対必要で所有権を喪うと否とは上告人一家の生死に関わる重大事であります。之に反し丹羽見吉は年も若く才覚も衆に勝れ、既に精麦製粉を営む傍ら近頃売薬商も始めて居り、生活に不自由のないものでありますから僅か一反四畝余歩の農地耕作のために上告人方の生命線である本件の宅地建物を自己所有として取り上げる必要はないと思うのであります。 以上

第一審判決の主文および事実

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告江原町農地委員会が原告所有の別紙記載の宅地建物につき昭和二十三年七月二十六日為した自作農創設特別措置法による買収決定ならびに同年八月二十一日異議却下の決定はいずれもこれを取り消す。被告徳島県農地委員会が同年十月一日為した訴願却下の裁決はこれを取り消す、訴訟費用は被告等の負担とする。との判決を求め、その請求原因として前記宅地建物は原告の所有であるが、訴外丹羽見吉の買収申請により被告町農地委員会は昭和二十三年七月二十六日自作農創設特別措置法第十五条の規定により買収計画を決定し、同年八月二十一日原告の異議を却下し次いで原告の訴願に対し同年十月一日被告県農地委員会は却下の裁決をした。しかし、右はいずれも左の理由により違法の処分であるからこれが取消を求める即ち同法第十五条によると(一)農業用施設の土地建物を政府において買収すべき旨の申請者は、同法第三条により政府の買収した土地を同法の規定により売渡を受け自作農となるべき者、(二)宅地については第三条の規定により買収する農地につき自作農となるべき者が賃借権使用貸借による権利若くは地上権を有する宅地に限られ、建物については右により自作農となるべき者が賃借権を有している建物に限られているのであるが、本件の買収申請は右(一)(二)のいずれにも該当していないのである(一)同人は精米精麦製粉業者であつて農業でない。昭和二十年十一月二十三日現在において一畝歩の土地も耕作せず訴外秋山真吉が訴外井口喜助より買い受け、更に岡本惣太郎に売渡した徳島県美馬郡江原町字拝原二〇五三番の一畑一反二十八歩字同二〇五三番の二畑五畝歩字同二〇三二番畑五畝二十二歩字同二〇五二番の二畑六畝七歩字同二〇五二番原野三畝歩合計三反二十七歩を岡本より秘かに闇価格で買い受け、その内一反二十八歩を除く爾余の土地を自作しているものである。しかるに右の内畑五畝二十二歩六畝七歩三畝歩につき登記簿上の所有名義人秋山真吉の申出により自作農創設特別措置法第三条第六号により被告町農地委員会をして政府買収をなさしめ、丹羽見吉はこれが売渡を受けたものであつて本件の宅地建物の買収計画申請は同人のこの資格によるものであるが、丹羽見吉は既に前述の通り前記農地を買い受け実質的にその所有権を取得したものであるから秋山真吉は実質上権利者でなく、同法第三条第五項第六号の所有者に該当しないから政府買収の相手方となり得ない。従つて虚空の登記名義人である秋山の申出による買収はその効力を生せず、又丹羽見吉は小作人でないのは勿論前記のとおりの商人であつて断じて農地耕作に従事するものでなく、農地耕作といつても自家の飯米補給の目的であるから農地の売渡を受ける適格者でない。(二)次に本件の宅地建物は前所有者なる原告の祖母三宅カクが訴外市橋武平の仲介により昭和十三年二月十日丹羽見吉に対し存続期間を同年三月一日より十ケ年賃料一ケ年金百円毎月末に十二分の一宛を支払う定めで賃貸し、原告は昭和十八年一月十四日売買によりその所有権を取得し、前記賃貸人の地位を承継したものであるが、父信行は盲目で脇町において琴の師匠をしていたところ、戦争以来琴のけいこをするような子女はなくなり他に生計の途がなく、現在妻安菊の扶助で不安の日を送つているので先祖累代の墳墓の地なる本籍地江原町に帰り祖先の祭祀を営むと共に、本件宅地の余裕地及び他の親族の土地を借り受け農業のかたわら養鶏業をして生計の建直しを念願し、本件土地建物は原告方に使用のため必要であるので賃貸借期間満了日である昭和二十三年三月一日以前なる昭和二十一年十二月十八日書留内容証明郵便により期間更新拒絶の通知をなし、且つ賃借人よりの継続申入をも拒絶して明渡を請求し昭和二十三年三月三十日弁護士に明渡訴訟手続を依頼し、爾来之が速進方を求めていたのにも拘らず、同年七月二十七日に至り漸く訴状が提出せられたがその間丹羽見吉のため右宅地建物に対する買収工作は着々進み前示の如く先ず六月二十八日江原町農地委員会をして農地を政府に買収せしめ、これを売渡を受け次いで右訴状提出の前日なる七月二十六日遂に本件宅地建物について買収計画を決定せしめた次第であるが、前示期間更新拒絶の予告により昭和二十三年三月一日賃貸借は終了し居り、以後丹羽見吉は宅地建物の不法占有者であるから七月二十六日現在において賃借権の存続を認めてなした本件買収計画の決定は違法である。従つてこれに対する異議却下ならびに訴願却下の裁決は違法の処分といわなければならない(立証省略)。

被告等訴訟代理人は、原告の請求を棄却する訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として本件宅地建物について原告主張のとおりの買収計画がたてられたことこれに対する原告の異議を却下する決定のあつたこと原告の訴願却下の裁決のあつたことはこれを認めるが、訴外丹羽見吉が自作農創設特別措置法第十五条による買収申請をなしたのが不法であり、前記各処分が違法であるとの点は否認する。(一)訴外丹羽見吉は本訴物件賃借以前は岩倉村において以後は現住所において農耕を専業とし所謂農業に精進するものである、その耕作反別は終戦当時現実に二反余であり現在は三反弱である。同訴外人は精麦(精米製粉でわない)を副業としているが、僅かに二馬力の電動機一台を運転し、しかも電力割当料一ケ月百八十キロにすぎないものである同人は原告の陳述するが如く同法により政府が買収した農地を政府より売渡を受けたものであつて、その手続においては原告主張の如き違法な点はない。従つてかゝる者がその営農上必要である本件物件の明渡を求められることはその生活を脅威するものである以上本件行政処分は適法である。(二)本訴土地建物に対し訴外丹羽見吉は昭和十三年二月以来原告のいうとおりの借地借家権を有するものである。原告主張の更新拒絶の申入は法定の期間満了より一年乃至六ケ月以前という要件を欠いていること、その主張自体によつて明らかであるから何等の効を生じないものである。仮りに右拒絶が適法の期間内に履行せられたとしても更新拒絶につき正当な理由が存しない、即ち原告は現在脇町において相当宏大な建物を所有し二階を貸間となし、父は琴の教授母は結婚媒介を業とし相当な生活をして居り、昭和二十年頃には本件宅地建物を売却しようとした事実がある。更に原告の家族は親子三人に過ぎないから現住家屋で十分生活し得られるに反し、訴外丹羽見吉は明渡と同時に一家雨露にさらされ極度の困窮に直面する危険があるので更新拒絶は不当であり、賃貸借はやはり存続していたものであるから被告町農地委員会が丹羽見吉を本訴土地建物の賃借人と認定して買収計画をたてたのは適法であり、従つて爾後の各行政処分もまた適法であるとのべた(立証省略)。

第二審判決の主文、事実および理由

一、主  文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

二、事  実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人江原町農地委員会が控訴人所有の別紙目録記載の宅地建物につき昭和二十三年七月二十六日為した自作農創設特別措置法による買収決定並びに同年八月二十一日異議却下の決定はいずれもこれを取消す、被控訴人徳島県農地委員会が同年十月一日為した訴願却下の裁決はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は控訴代理人において訴願棄却の裁決書の謄本の交付を受けた日は昭和二十三年十月一日頃である、本件宅地建物は県道たる撫養街道に面し建物は商店向に建築せられ、附近は人家稠密し江原小学校に近く従来控訴人の父祖その他居住者において日用品及び文具類を販売し来り、宅地の余剰地を菜園に充てた外農耕に使用したことはなく本来農業経営には適しないものである。訴外丹羽見吉は従来精米製粉業を営み農耕に従事したことなく、昭和二十一年六月頃訴外岡本惣太郎より三反一畝二十八歩の農地を買受け、其の内一反四畝二十二歩の耕作を始めたものであつて、本件宅地建物と右農地(解放農地)とは右買受け前は勿論、その後も各所有者を異にし両者間は農業経営上従属性がないと述べ、被控訴人等代理人において訴願棄却裁決書の送達の点は争わないと述べた外いずれも原判決事実摘示と同一であるからこゝにこれを引用する(証拠省略)。

三、理  由

被控訴人江原町農地委員会が訴外丹羽見吉の買収申請により控訴人所有の別紙目録記載の農地につき昭和二十三年七月二十六日自作農創設特別措置法(以下自創法と略称する)第十五条により買収計画を樹てたこと、之に対し控訴人は適法な異議の申立をしたところ右被控訴人は同年八月二十一日異議申立を却下したので、更に控訴人は被控訴人徳島県農地委員会に訴願したが同被控訴人もまた、同年十月一日訴願棄却の裁決をしその裁決書の謄本が同日頃控訴人に送達せられたことは当事者間に争のないところである。よつて先ず右丹羽見吉が本件宅地建物の買収申請をする資格があるか否かについて考えて見るに被控訴人町農地委員会が訴外秋山真吉の申請により自創法第三条第五項第六号に基き同訴外人所有名義の控訴人主張の土地数筆につき政府買収計画を定め、次いで右丹羽見吉がその売渡を受けたことは当事者間に争なく、原審証人秋山真吉、同丹羽見吉及原審並びに当審証人市橋正の各証言を綜合すれば前記の各土地は元、秋山真吉の所有であつたが同人より昭和二十年十月頃訴外岡本惣太郎に同訴外人よりその頃右丹羽見吉に順次売渡されたものであつて、その登記手続が延びている間に関係者協議の上、右秋山真吉より右丹羽見吉に直接所有権移転登記手続をすることになつたところ、昭和二十一年十一月頃右両名の合意により右売買契約をそれぞれ解除し原状に復することゝし、その所有権を右秋山真吉に回復せしめ右土地を右丹羽見吉が耕作していたが、右秋山真吉より前記の如く買収申請がなされたので被控訴人江原町農地委員会は買収計画を樹て政府において買収をなし、次いで右丹羽見吉は右の資格に基きその売渡を受けたことを認めることができるから買収申請人の秋山真吉に右土地の所有権がなかつたとは謂えないのみならず、右丹羽見吉にその売渡を受ける資格がなかつたものとも謂えない。前顕証人丹羽見吉、原審証人佐藤林吉、同佐藤道夫、同中谷三郎及当審証人佐藤清吉の各証言を綜合すれば右丹羽見吉は昭和十三年三月以降精麦、製粉業を営んでいたがその間副業とは云え役畜を使つて農耕に従事し、右売渡を受けた当時には控訴人主張の前記土地を耕作していたことが認められ、右認定に反する当審証人多田一枝、及び当審における控訴人法定代理人三宅信行本人の供述は措信し難く甲第十八、第十九号証、原審証人佐藤林吉、前顕証人市橋正の各証言によりては右認定を覆すに足らず他に右認定を覆すべき証拠わない。従つて右丹羽見吉は農業を営むものと謂うに妨げない。

尚一旦前記の如く農地の買収を売渡がなされた以上、その取消の処分又は裁判のなされたことが現れない本件においては右丹羽見吉の右土地売渡を受けたことは最早動かされない事実と見るの外わない。

以上の事実を綜合して考えれば右丹羽見吉は自創法第十五条に基く買収申請資格の備わつていたものと謂うことができる。

次に本件の宅地建物につき丹羽見吉が賃借権を有していたか否かの点を考えて見るに、控訴人の前所有者たる三宅カクが昭和十三年二月十四日右丹羽見吉に対し存続期間同年三月一日より向う十ケ年その他控訴人主張の如き約旨で右宅地建物を賃貸したこと及び控訴人が昭和十八年一月十日その所有権を取得し、賃貸人の地位を承継したことは当事者間に争なく、控訴人が昭和二十一年十二月十八日右訴外人に対し更新拒絶の通告をしたことは成立に争のない甲第三号証によりその後昭和二十二年四月頃及七月頃右訴外人に対し控訴人の母が期間満了せば宅地建物を明渡され度き旨請求したことは成立に争のない甲第十三号証、同第十六号証により明かであるから法定期間内に更新拒絶の通知をしたものと解することができる。よつて右更新拒絶について正当の事由があつたか否かを考えて見るに、前顕甲第十三号証、同第十六号証前顕法定代理人三宅信行本人の供述を綜合すれば控訴人の父信行は琴の師匠をしたり古物商を営んでいるが、ともに収入少なきため肩書の脇町に居住することが困難であるので、養鶏等や文具商を始めるため本件宅地建物を自ら使用の必要上更新拒絶の通知に及んだものと認められる。けれども前顕右各号証成立に争のない甲第十五号証、乙第九号証前顕証人丹羽見吉、同中谷三郎の各証言、前顕法定代理人三宅信行本人の供述の一部及び弁論の全趣旨を綜合すれば控訴人方は控訴人と父母の三人暮しでその住家も昭和二十二年十二月末頃買入れて所有するものであるに反し、右丹羽見吉は妻子五人を有し右のとおり農業兼精麦製粉業を営み、本件建物は農家向ではないがその一部を事実上農作物の収納所その他農業の用にも供しており、他に移転すべき家屋もなく、本件宅地建物なくては農業を営むに多大の困難を生ずる状況にあることが認められ、右認定を覆すべき証拠わない。

以上の事情を綜合して考えるときは控訴人の更新拒絶に正当の事由あるものとは認められない。

然るに控訴人は本件宅地建物は本件買収農地との間に直接の従属関係がないから自創法第十五条第一項第二号に基いて買収し得べき限りでないと主張するけれども、右第十五条の立法の趣旨は農地改革によつて自作農となるべき者が将来農業経営をして行く上の基盤を鞏固にし農業生産力の増強を図らんとするためであるから同法第一項第二号掲記の宅地その他についても農業経営と全然関係のないものゝ買収はこれを許さないが、苟も当該自作農となるべき者の農業経営は必要である限り、これが買収を許す趣旨であると解するを相当とすべく、これを控訴人主張のように狭く解さなければならない根拠わない。しかして本件において右丹羽見吉は本件建物に居住しているのみならず、収穫物農具等の収納その他農業経営の目的で使用していることは当事者間に争のないところであるから、本件宅地建物は同人の農業経営について必要なものと謂うべく買収し得べきものであることは言を俟たないところである、故に右主張は理由がない。

次に控訴人は本件建物は商店向に建築せられたもので構造上農業用施設としては不適当であるから斯様な建物を買収するのは違法であると主張するけれども、前段認定の如く自創法第十五条の立法趣旨は同法によつて農地の買収を受け、自作農となるべき者にその農業経営上必要とする施設、物件等を取得せしめてその自作農たる地位を強化し以て農業生産力の増強を図らんとするにあるから買収し得べき建物は必ずしも客観的に農業用施設たるに適する構造を具備するものに限ると解すべきでわないのであつて、右の立法趣旨に副う限り当該自作農となるべきものがその農業経営上必要とする建物わたとえその構造が商店向に適しているとしても買収することができるものと解するのが相当であるから、本件建物が仮にその構造上農業用施設たるに適しないとしてもそれだけの理由では直に以て本件買収計画を違法とすることはできない故に右主張もまた理由がない。

然らば本件宅地建物について被控訴人江原町農地委員会のなした本件決定並びに被控訴人徳島県農地委員会のなした本件裁決はいずれも正当であつて、何等違法の点なく右決定並びに裁決の取消を求める控訴人の請求は不当であつて到底棄却を免れない。

よつて右と同趣旨に出た原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三百八十四条によりこれを棄却し訴訟費用につき同法第九十五条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

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